「逃げの転職」は悪いこと?6年目看護師が本気で考えてみた
「それ、逃げの転職じゃない?」
直接そう言われたことがなくても、この言葉が頭の中にある人は多いと思います。私もそうでした。辞めたい理由を数えれば数えるほど、「これって前向きな理由じゃないよな」と思ってしまう。前向きじゃないなら、辞めちゃいけない気がしてくる。
私は急性期病棟で6年働いて、来年の3月で退職します。理由は、正直に言えばキャリアアップではありません。しんどかったからです。
この記事では、私が「辞めたい」と思った理由を全部並べたうえで、「逃げの転職」は本当に悪いことなのかを、6年目の今の頭で考えてみます。
「逃げの転職」という言葉が、いちばん人を動けなくする
不思議なもので、看護師の世界では「もっと専門性を高めたい」「訪問看護に挑戦したい」と言えば応援されるのに、「もう限界です」と言うと、少しだけ空気が変わります。
同じ「辞める」なのに、理由によって扱いが違う。だから私たちは、辞めたい理由を前向きな言葉に翻訳しようとして、うまく翻訳できないまま、その場にとどまってしまいます。
でも、よく考えてみてください。「逃げ」という言葉は、たいてい残る側から出てくる言葉です。実際に毎日その環境にいて、夜勤明けに眠れなくなっているのは自分だけです。自分の体で起きていることを、他人の語彙で判定する必要はありません。
私が「辞めたい」と思った理由は、5つあった
まず、自分の理由を正直に並べてみます。どれか1つが決定打になったわけではなく、5つが同時にあったことが大きかったです。
1. 人間関係
いちばん語られやすくて、いちばん外から見えにくい理由だと思います。誰かに明確ないじめを受けたという話ではなくても、聞き方ひとつ、報告のタイミングひとつで空気が変わる職場では、常に神経を使い続けることになります。
看護は一人で完結しない仕事なので、人間関係のしんどさがそのまま業務のしんどさになります。ここが合わないと、他が良くても消耗していきます。
2. 日勤と夜勤の繰り返しで、生活リズムが崩れる
日勤で働いて、数日後には夜勤に入る。この繰り返しで、体内時計は毎週リセットされます。夜勤明けに寝られない、休みの日も体が重い、食欲が安定しない。私の場合は、ここが心身の不調としていちばん形になって出ました。
厄介なのは、これが「がんばれば慣れるもの」だと思われがちなことです。慣れる人もいますが、慣れない人もいます。それは根性の問題ではありません。
3. 前残業は黙認、でも手当はつかない
始業前に情報収集をして、点滴の準備をして、必要な物品をそろえる。始業時刻ちょうどに来て回せる日は、まずありません。それなのに、その時間は勤務時間として扱われない。
これは金銭的な不満だけの話ではなくて、「働いた分が働いたことになっていない」という感覚が、じわじわ効いてきます。何年も続くと、自分の時間が軽く扱われているように感じてしまうんです。
4. 患者さんからの暴言・暴力
急性期にいると、せん妄や疾患の影響で、暴言や手が出てしまう場面に出会います。頭では「病気のせいだ」とわかっています。わかっていても、疲れは残ります。
そして、こういう出来事は「よくあること」として流されがちです。流された分が、そのまま自分の中に溜まっていきます。
5. 2交代・3交代のシフトが、自分に合っていない
2交代の長時間夜勤が向いている人もいれば、3交代の細切れ勤務のほうが耐えられる人もいます。逆もあります。ここは完全に相性で、優劣ではありません。
ただ、病棟にいる限り「合わないシフト」から自分だけ抜けることはできません。合わないまま何年も続けることになる。私がいちばん現実的に無理だと思ったのは、この部分でした。
並べてみて分かったのは、5つのうち4つが、自分の努力では動かせないものだったことです。
「逃げ」かどうかより、体が持つかどうか
6年いると、辞めていく人を何人も見ます。先輩も、後輩も。そのなかで私がいちばん気になっているのは、転職した人ではなく、看護師そのものを辞めていった人たちです。
共通していたのは、限界がくるまで動かなかったことでした。体調を崩してから休職して、そのまま復帰できずに離れていく。もともと看護が嫌いだったわけではないのに、です。
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先輩
最近、夜勤明けに全然寝られなくてさ。休みの日もずっと体が重い。
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私
それ、けっこう続いてますよね。一度休んだほうがいいんじゃないですか。
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先輩
でも、逃げたって思われるのが嫌なんだよね。
このやりとりを、私は何度も思い出します。あのとき先輩を止めていたのは、仕事の量でも、師長でもなく、「逃げたと思われたくない」という気持ちだけでした。
数字を見ても、他人事ではありません。
2024年度に年度内で退職した新卒看護職員について、看護管理者が挙げた主な退職理由の1位は「健康上の理由(精神的疾患)」で54.6%。500床以上の病院では71.2%にのぼる。
公益社団法人 日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」(2026年3月公表)
辞める理由の中心にあるのは、キャリアの話ではなく、体と心の話だということです。
だから私は、こう考えるようにしました。「逃げかどうか」は他人が決める話で、「体が持つかどうか」は自分にしか判断できない話。優先すべきは、後者です。
ストレスがゼロの職場はない。でも「重なっている」なら話は別
誤解のないように書いておくと、私は「しんどい=すぐ辞めるべき」とは思っていません。どんな職種にも、ストレスが1つもない仕事はないと思っています。転職しても、新しい環境には新しいしんどさがあります。
私が線を引いているのは、そこではありません。しんどさの数と、それが変えられるものかどうかです。
たとえば、こんな状態になっていたら、環境のほうが合っていない可能性が高いと思います。
- 辞めたい理由が1つではなく、3つ以上ある
- その理由の多くが、自分の努力では変えられないもの(シフト、体制、給与、風土)である
- 休みの日に、体力や気力が回復しきらない状態が続いている
- 夜勤明けの不調が、以前より長引くようになった
- 「この働き方をあと5年続けている自分」がまったく想像できない
1つだけなら、部署異動や働き方の調整で変わることもあります。でも複数が重なっているとき、それは自分の頑張り方の問題ではなく、環境との相性の問題です。相性の問題は、場所を変えないと解決しません。
看護師免許があるということの意味
ここで、少しだけ現実的な話をします。
看護師の強みは、職場を変えても資格がそのまま使えることです。病棟、クリニック、訪問看護、介護施設、健診センター、企業の健康管理室、保育園や学校。夜勤があるかないか、休日はどうか、患者さんとの距離感はどうかまで含めて、働き方の選択肢が広い職種だと思います。
同じ調査によると、2024年度の正規雇用看護職員の離職率は11.0%、新卒採用者は8.4%でした。毎年これだけの人が動いている職種で、1つの職場に居続けることだけが正解、ということはないはずです。転職はもう、珍しい選択ではなくなりました。
もちろん、どこに行っても大変さはあります。ただ「夜勤がない」「前残業の文化がない」「暴言のリスクが比較的低い」など、自分がしんどいと感じている項目を減らせる職場は実在します。今の職場を基準に「どこに行っても同じ」と決めてしまうのは、少しもったいないです。
6年目の私が出した結論
私は来年の3月で今の病棟を辞めます。理由を一言でまとめるなら、「体を壊す前に、自分に合う場所を探したいから」です。前向きでもなければ、立派でもありません。
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同期
結局さ、逃げの転職って悪いことなのかな。
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私
悪いことにしておいたほうが、たぶん都合がいい人がいるだけだと思う。
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同期
……たしかに。倒れても代わりはいるもんね。
言い方は悪いですが、これが6年働いて出た実感です。自分の体調と引き換えに守れるものは、思っているより少ない。逃げと呼ばれてもいいから、自分が続けられる働き方を選ぶ。それが今の私の結論です。
もし今、眠れない日が続いていたり、休みの日も回復しない状態が長引いていたら、転職の前にまず産業医や医療機関に相談してみてください。判断は、体力が少し戻ってからのほうが確実にうまくいきます。
辞めると決める前に、やっておきたいこと
最後に、これだけはお伝えしたいことがあります。
転職先を見ることと、実際に辞めることは別です。求人を見ただけでは何も始まりませんし、今の職場に伝わることもありません。それでも、「日勤のみの職場が実際どれくらいあるのか」「今の経験年数でどんな選択肢があるのか」を知っているかどうかで、辞めたいと思ったときの足腰はまったく変わります。
私が3年目で何も言い返せなかったのは、その情報を1つも持っていなかったからでした。逃げるかどうかを決めるのは、選択肢を見てからで十分です。
※ 登録しても、すぐに転職する必要はありません。条件だけ見て、「こういう働き方もあるんだ」と知っておくだけでも十分です。
まとめ
- 「逃げの転職」という言葉は、たいてい残る側から出てくる言葉。自分の体で起きていることを、他人の語彙で判定しなくていい
- 私が辞めたい理由は、人間関係・生活リズムの乱れ・前残業と残業代・患者さんからの暴言や暴力・シフトの相性の5つで、うち4つは自分では変えられないものだった
- 辞める理由の中心にあるのは、キャリアより体と心の話。新卒看護師の退職理由の1位は「健康上の理由(精神的疾患)」で54.6%
- ストレスがゼロの職場はない。ただし、変えられないしんどさが複数重なっているなら、それは相性の問題
- 看護師免許があれば働き方の選択肢は広い。体を壊してから動くより、動けるうちに選択肢だけでも見ておく
逃げでもいいと思います。続けられる場所にたどり着いた人が、結局いちばん長く看護を続けられているので。
出典:公益社団法人 日本看護協会「2025年 病院看護実態調査」(2026年3月公表)