【体験談】退職を切り出したとき、看護師の私が実際に言われたこと|3年目と6年目で引き止められ方はこう変わった

「辞めたいです」。この一言を口に出すまでに、私は何年もかかりました。

言ったら引き止められるんじゃないか。気まずくなるんじゃないか。そもそも辞めさせてもらえないんじゃないか。そう思ったまま、夜勤明けの帰り道でぼんやり考えている人は多いと思います。

私は同じ病棟で6年働いて、その間に3回「辞めたい」と師長に伝えました。1年目、3年目、そして6年目の今です。同じ言葉を伝えたのに、返ってきた反応は毎回まったく違いました。

この記事では、私が実際に言われた言葉をそのまま書きます。そのうえで、よくある引き止めのパターンと、引き止めが弱くなる条件、知っておくと落ち着いて話せる基本ルールをまとめます。読み終わるころには、「切り出す前にこれだけやっておけばいい」というのが見えているはずです。

私が師長に「辞めたい」と伝えた3回

先に結論から言うと、引き止められたのは3年目の1回だけでした。同じ職場、同じ師長、同じ「辞めたい」という言葉なのに、です。順番に書いていきます。

1年目:入職してすぐ「3年目で辞めます」と伝えていた

私は1年目のうちから、師長に「3年目くらいで辞めようと思っています」と伝えていました。今思うと生意気だったかもしれませんが、当時の私はそれくらい追い詰められていたんだと思います。

このときは引き止めというより、「まあ、まずは1年やってみようか」という反応でした。1年目の新人が言うことなので、本気だとは受け取られていなかったのかもしれません。

ただ、この「早めに言っておいた」ことは、あとから効いてきました。3年目に本当に切り出したとき、師長にとっては初耳ではなかったからです。

3年目:実際に切り出したら、引き止められた

3年目、本当に限界だと感じて「辞めたいです」と伝えました。そのときのやりとりが、これです。

  • 私

    師長、ご相談があります。今年度で退職を考えています。

  • 師長

    そう……。転職先はもう決まっているの?

  • 私

    いえ、まだ決まっていません。

  • 師長

    転職先が決まっていないのであれば、もう少し同じ場所で働いた方がいいんじゃない?まだ3年目で異動の経験もないよね。病棟を移ってみるのはどう?

  • 私

    ……考えてみます。

怒られたわけでも、強く止められたわけでもありません。むしろ私を心配してくれている口調でした。だからこそ、言い返せませんでした。

「転職先、決まってません」としか言えなかったし、「病棟を変えれば変わるかもしれない」と言われると、そうかもしれないと思ってしまう。結局、私はそのまま働き続けることになりました。

今振り返ると、この引き止めには2つの材料が使われています。転職先が決まっていないことと、まだ試していない選択肢が残っていることです。この2つがあると、引き止める側は「本人のために」という顔で止めることができてしまいます。

6年目:同じことを伝えたら、引き止められなかった

そして6年目の今、あらためて辞めたい意思を伝えました。今度は、こんなやりとりでした。

  • 私

    師長、お時間いいですか。今年度いっぱいで退職したいと思っています。

  • 師長

    そう。……そろそろキャリアのことを考える時期にもなるだろうから。

  • 私

    (え、それだけ?)

引き止めは、ありませんでした。3年目のときとほとんど同じ伝え方をしたのに、です。

違っていたのは、私の経験年数だけでした。6年目は「辞めても不自然ではない年次」だった、ということだと思います。裏を返せば、3年目の私が止められたのは、私がおかしかったからではなく、止めやすい条件がそろっていたからでした。

実際に言われた引き止めのパターンと、その裏側

ここからは、私が実際に言われたものと、同期や先輩から聞いた典型的なパターンをまとめます。自分が言われそうな言葉を先に知っておくと、その場で頭が真っ白になるのを防げます。

退職を切り出したときに言われる引き止めの6つのパターン一覧
退職を切り出したときに言われる、引き止めの6パターン

パターン1「転職先が決まっていないなら、もう少し続けたら?」

決まっていないのは事実なので、反論できません。しかもこちらの生活を心配する形をとっているので、断ると自分がわがままなように感じてしまう。だからこの言い方は強いんです。

裏を返せば、転職先が決まっていれば、この引き止めは使えなくなります。

パターン2「まだ異動も経験していないよね。病棟を変えてみたら?」

病棟を移って楽になることは、実際にあります。ただ、しんどさの原因が病棟ではなく働き方そのものだった場合は、移っても変わりません。夜勤の負担も、緊張感も、記録に追われる時間も同じだからです。

異動を提案されたら、まずそこを切り分けてみてください。

パターン3「3年は続けないと、どこに行っても通用しない」

これは事実というより慣習です。日本看護協会の調査(2024年度)では、正規雇用看護職員の離職率は11.0%、新卒採用者は8.4%、既卒採用者は16.1%。毎年これだけ動いている職種で、絶対のルールとして機能しているとは考えにくいと思います。

経験年数が長いほど選べる職場は広がりますが、体を壊してまで守るべき数字ではありません。

パターン4「今は人が足りない。あなたが抜けると回らない」

これは本当のことが多いです。ただ、人員配置は病院側が担う責任であって、辞める人が背負うものではありません。

「引き継ぎはしっかりやります」「退職日はご相談させてください」と、協力する姿勢だけ示せば十分です。

パターン5「期待していたのに、残念だ」

悪意がないぶん、いちばん心に刺さります。大事なのは、罪悪感と判断を混ぜないことです。

「育てていただいたことには感謝しています。そのうえで、今後のことを考えて決めました」。この形なら、感謝と決意を両立させられます。

パターン6「有給は消化できない」「退職金は出ない」

ここまでくると圧力です。そして、事実と違うことを言われている可能性があります。

退職日が決まっている場合、会社が有給を別の日にずらすこと(時季変更権)は基本的にできません。行政通達(昭和49年1月11日 基収5554号)でも、退職日を超えて行使することはできないとされています。「人手が足りない」だけでは理由になりません(ごく例外的に会社側の主張が認められた裁判例はあります)。

また、就業規則に沿って辞め、引き継ぎを誠実に行っている限り、退職そのもので賠償責任が生じることは通常ありません。根拠を示さずにこうした言葉が出たら、その場で結論を出さず、日時と発言内容を記録して持ち帰ってください。

ちなみに私の場合は、有給についてはもめませんでした。病院から頼まれる形で2年近く夜勤専従をやっていたので、辞める前に有給を消化したいと伝えたら、すんなり通りました。こちらもお願いされて引き受けてきた、という事実があると、話は通しやすくなるのだと思います。

引き止めが弱くなる3つの条件

3年目と6年目を比べて、私が実感した違いは、次の3つです。

引き止めが弱くなる3つの条件をまとめた図
引き止めが弱くなる3つの条件

知っておくと落ち着いて話せる、退職の基本ルール

法律の話は難しく感じますが、押さえるのは2つだけで十分です。

ひとつめは、期間の定めのない雇用(正職員)であれば、退職は本人の権利であり、会社は原則として拒否できないということ。民法627条1項は「解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と定めています。つまり退職は、会社の承諾を条件とするものではありません。裁判例でも、退職に会社の許可を必要とする就業規則の定めは効力を持たないとされています(高野メリヤス事件・東京地裁昭和51年10月29日判決)。会社ができるのは、説得や慰留までです。

ふたつめは、就業規則の「1か月前までに申し出ること」との関係です。実務では就業規則に沿って早めに伝えるほうが円満ですし、引き継ぎを考えても現実的です。ただし、就業規則にそう書かれているからといって、それを理由に退職そのものを止めることはできません。期間は守るのが望ましいけれど、守らなかったから辞められなくなる、という関係ではないということです。

とはいえ、話し合いの場でいきなり「民法では」と持ち出す必要はまったくありません。これは、追い詰められたときに自分を支えるための知識です。知っているだけで、落ち着いていられます。

なお、働き方によってルールは変わります。契約期間の定めがある働き方(契約職員・パートなど)は民法628条が関わってくるため、正職員と同じようにはいきません。実際にトラブルになりそうな場合は、勤務先の就業規則を確認したうえで、労働基準監督署の総合労働相談コーナーや専門家に相談してください。この記事は私の体験と一般的な情報をまとめたもので、法的な助言ではありません。

6年目の今、振り返って思うこと

6年働いてみて正直に思うのは、1年目から3年目が、いちばんしんどい時期だったということです。

できないことばかりで、覚えることは山ほどあって、夜勤にも体が慣れていない。それなのに「まだ3年目だから」と言われて、いちばん苦しい時期が、いちばん動きにくい時期になってしまっている。

実際、新卒採用者の離職率は8.4%で、既卒採用者の16.1%より低い数字です。数字だけ見れば新人はあまり辞めていないように見えますが、「辞めていない」と「しんどくない」は同じではありません。私も辞めませんでしたが、しんどくなかったわけではありませんでした。

あのとき引き止められたことを恨んではいません。師長は本気で心配してくれていたと思います。ただ、もし当時の私に一言だけ言えるなら、「せめて転職先だけは見ておきなよ」と言います。辞めるかどうかは、そのあとで決めればよかったからです。

引き止められる前に、やっておきたいこと

ここまで書いてきたとおり、引き止めのいちばん強い材料は「転職先が決まっていないこと」です。逆に言えば、そこさえ埋まっていれば、話し合いの空気は変わります。

そして大事なのは、転職先を探すことと、実際に辞めることは別だということです。求人を見ただけでは何も始まりませんし、今の職場に伝わることもありません。

「日勤のみの職場は実際どれくらいあるのか」「今の経験年数でどんな選択肢があるのか」を知るだけでも、切り出すときの足腰がまったく変わります。私が3年目で言い返せなかったのは、その情報を1つも持っていなかったからでした。

※ 登録しても、すぐに転職する必要はありません。まずは条件だけ見て、「こういう働き方もあるんだ」と知っておくだけでも十分です。

まとめ

  • 3年目で「辞めたい」と伝えたら、「転職先が決まっていないなら」「病棟異動してみたら」と引き止められた
  • 6年目で同じことを伝えたら、「キャリアを考える時期だから」と引き止められなかった
  • 引き止めが弱くなる条件は、転職先が決まっていること・理由がキャリアの話になっていること・退職希望日が具体的なこと
  • 有給消化や損害賠償について事実と違うことを言われたら、その場で結論を出さない
  • いちばんしんどいのは1〜3年目。だからこそ、動けるうちに情報だけでも持っておく

辞めると決めていなくても大丈夫です。ただ、「引き止められたときに何も返せない自分」だけは、先に減らしておいてください。