急性期を離れる不安。「スキルが落ちるのが怖い」への私なりの答え

「辞めたい」よりも先に来たのは、「辞めたあと、私はちゃんと看護師でいられるのかな」という不安でした。

私は急性期病棟で6年働いて、来年の3月に退職します。決めるまでに、3年かかりました。ためらっていた理由は夜勤でも人間関係でもなくて、「急性期を離れたらスキルが落ちる」という漠然とした怖さでした。

この記事では、その怖さで動けなかった3年目・5年目のことと、6年目になって不安の中身が変わったきっかけを書きます。同じところで止まっている人に、少しでも判断材料が渡せたらと思っています。

私が3年目と5年目で辞められなかった理由

1年目:「3年目で辞めます」と宣言していた

私は入職してすぐの頃から、周りに「3年目で辞めるつもりです」と言っていました。今思えば生意気だったと思いますが、当時はそれくらい必死だったんだと思います。

だから3年目は、私にとって最初から「辞める予定の年」でした。

3年目:仕事は回るのに、アセスメントに自信がなかった

ところが実際に3年目になってみると、病棟の雰囲気にも慣れて、業務も一通りこなせるようになっていました。日勤のリーダーも、夜勤も、なんとか回せる。

それでも辞めなかったのは、アセスメント能力が身についた実感がまるでなかったからです。手は動くけれど、「この患者さんのこの変化が何を意味しているのか」を自分の言葉で説明できる自信がない。この状態で外に出たら通用しないんじゃないか、と思ってしまいました。

そうして、「もう少しだけ病棟に残ろう」と決めました。

5年目:中堅になって、今度は別の理由で動けなくなった

5年目になると、中堅として後輩から頼られることが増えました。相談される、任される、必要とされる。それ自体は嬉しいことでした。

でも次の職場が決まっているわけでもないし、慣れている職場のほうが正直ラクでもある。「もう少しここで頑張ろう」と、また先延ばしにしました。

今になって並べてみると、私は3年目は「スキルが足りないから」、5年目は「せっかく身についたのに手放すのが怖いから」で残っていたんです。理由は逆なのに、結論はどちらも「辞められない」でした。この2つを行き来している限り、動ける日は来ませんでした。

3年目は「スキルが足りない」、5年目は「手放すのが怖い」で辞められないループの図
理由は正反対なのに、どちらも「まだ辞められない」に行き着いていました

6年目で、不安の中身が変わった

転職した同期は、別の病院で普通に働いていた

6年目になって、ある程度の疾患には自分で対応できるようになりました。そのタイミングで、先に辞めていった同期と会う機会がありました。

彼女たちは別の病院で、私と同じように普通に業務をこなしていました。病院が変わったからといって、スキルが落ちているようには見えなかった。むしろ新しい環境で覚えたことを話してくれて、私のほうが「知らないこと、増えてるな」と感じたくらいです。

訪問看護に移った後輩の話

もうひとつ大きかったのが、同じ病棟にいた後輩が訪問看護に転職して、その後に聞いた話でした。

  • 私

    訪問って一人で判断するんでしょ?夜間のオンコール、怖くない?

  • 後輩

    病棟である程度身につけてから来たので、そんなに怖くないですよ。

  • 私

    スキル落ちた感じはしない?

  • 後輩

    看護技術は毎日するので、落ちた感じはしないです。あと一番良かったのは、お局がいないことですね(笑)

最後の一言が、いちばん残りました。

病棟で身につけたものが、ちゃんと別の場所で使えている。しかも本人は前より穏やかに働いている。私が守ろうとしていたものは、環境を我慢しないと守れないものだったんだろうか、と考えるようになりました。

病棟で身につけたスキルが、別の病院や訪問看護でも使われていたことを示す図
同期も後輩も、場所が変わってからもスキルを使い続けていました

「スキルが落ちる」を3つに分けて考えてみた

不安が消えないときは、たいてい中身が曖昧なままです。私は「スキル」を、こう3つに分けてみました。

看護技術・急性期の判断・環境に適応する力の3つにスキルを分けた図
「スキルが落ちる」を3つに分けて考えてみました

1. 看護技術|場所が変わっても使い続ける

採血、点滴、吸引、処置、褥瘡ケアなど、手を動かす部分です。場所が変わっても使い続けますし、むしろ訪問や施設では、その場に自分しかいない分、一人でやりきる力はつきます。後輩が「落ちた感じはしない」と言っていたのは、ここのことだと思います。

2. 急性期ならではの判断|出番が減るだけ

急変対応、術後管理、モニターや検査値の読み。ここは正直に書きますが、離れれば使う頻度は減ります。ただ「ゼロになる」のではなく「出番が減る」だけです。そして、この力が必要な現場に戻れば、感覚は戻ってきます。

3. 環境に適応する力|動いた人ほど伸びる

これは同じ病棟にい続けるほど伸びにくい部分です。転職した同期が私より詳しくなっていた領域があったのは、たぶんここが動いたからでした。

つまり正確には、スキルが落ちるというより、使うスキルの種類が変わるということなんだと思います。

ピンクの聴診器とハートのイラスト

我慢して守るスキルに、どれだけ意味があるか

どの病棟にも、いわゆるお局と呼ばれる人はいます。先輩の機嫌をうかがいながら、間違っていないのに萎縮しながら仕事をする時間が、毎日少しずつ積み重なっていく。

そういう働き方で守り続けるスキルと、自分に合った環境でストレスなく発揮できるスキル。長い目で見てどちらが自分のためになるのか、6年目の今の私は後者だと思っています。

看護は、体力と気持ちに余裕がないとうまくできません。

環境を選ぶことは、逃げではなく、看護の質を保つための判断でもある

「もう戻れない」わけではない

それでも「一度離れたら急性期には戻れない」と思っている人は多いと思います。私もそう思っていました。

でも実際には、施設や訪問看護を経験してから急性期に戻る人はいますし、中途採用者向けの教育体制を整えている病院も増えています。

見学や面接で「中途入職者の研修」を聞いてみる

気になる病院があれば、見学や面接のときに「中途入職者の研修はどうなっていますか」と聞いてみるのが確実です。そこで具体的に答えられる病院は、教育に力を入れていると考えていいと思います。

片道切符ではない、と分かるだけでも、決断の重さはずいぶん変わります。

6年目の私が、3年目の私に言いたいこと

「スキルが足りないから、まだ辞められない」。この“足りない”には、終わりの基準がありません。

実際、私は3年目でも5年目でも、そして6年目の今でも、「完璧に身についた」と思える日は一度も来ませんでした。それはたぶん、これから先も来ません。基準がないものを待っていたら、何年でも待ててしまいます。

だからもし3年目の自分に一言だけ言えるなら、伝えたいのはこれだけです。

辞めるかどうかは後で決めていいから、外の情報だけ先に見ておきなよ

6年目の私から、3年目の私へ

私が動けなかったのは覚悟が足りなかったからではなく、比べる材料を1つも持っていなかったからでした。

3年目・5年目・6年目と「まだ足りない」が続き、終わりの基準がないことを示すタイムライン図
3年目も5年目も6年目も、「まだ足りない」は終わりませんでした

不安が消えるのを待つより、先に材料を集める

「スキルが落ちるのが怖い」という不安は、考えているだけでは消えません。消えたのは、実際に外に出た同期や後輩の話を聞いたときでした。

求人を見ることと、辞めることは別です。見ただけでは何も始まりませんし、今の職場に伝わることもありません。それでも、今の経験年数でどんな職場が選べるのか、訪問や施設ではどんな働き方になるのかを知っておくだけで、迷ったときの足腰はまったく変わります。

パソコンで求人情報を調べている看護師のイラスト

※ 登録しても、すぐに転職する必要はありません。まずは条件だけ見て、「こういう働き方もあるんだ」と知っておくだけでも十分です。

まとめ

  • 3年目は「アセスメントに自信がない」、5年目は「せっかく身についたのに手放すのが怖い」で辞められなかった
  • 転職した同期は別の病院で普通に働いていて、スキルが落ちているようには見えなかった
  • 訪問看護に移った後輩は「毎日看護技術をするから落ちた感じはしない」「一番良かったのはお局がいないこと」と話していた
  • 「スキルが落ちる」のではなく「使うスキルの種類が変わる」。急性期特有の判断は出番が減るだけで、必要な現場に戻れば戻ってくる
  • 中途向けの研修を整えている病院もあるので、急性期は片道切符ではない
  • “足りない”に終わりの基準はない。辞める前に、比べる材料だけ先に持っておく

怖さが完全になくなってから動こうとすると、たぶん一生動けません。不安を消すのではなく、不安の中身を分けて、事実で埋めていくほうが早いと私は思います。